小型高エネルギーX線源
~がん治療の高度化と構造物健全性検査~
原子力工学は発電のみならず、病気の治療や構造物の検査技術にも応用できることをご存知でしょうか。今後放射線は、私たちの生活をどのように支えていくのでしょう。上坂充教授にお話を伺ってきました。
先生の研究を教えてください。
小型のX線源を開発して医療や構造検査に役立てようと、研究しています。十数年かけて、持ち運べるほど小型のX線源を3種類作製しました((株)アキュセラと共同)(図1、2、3)。
図1の装置は250 mlペットボトル程度、図2は500 mlペットボトル程度、図3はその約2倍の大きさの本体です。これらは電源や冷却装置などを含めるとスーツケース3個程度の大きさになります。装置の構造を最適化することで、従来なかった小型のX線源を実現しました。
「構造の最適化」とはどのようなものでしょうか?
X線源の中には共振回路があり、装置の長さがちょうど電磁波の半波長の整数倍の長さになっている時共振します。ですから波長を小さくすれば、共振する空間(装置)を小さくできます。図1~3の3つの小型X線源では、通信の技術から応用した高周波数技術で電磁波の波長を短くし、装置の小型化を図りました。
これらの小型装置は何に使えるのでしょうか?
高電界をかけて、図1の装置は950 keV、図2が3.95 MeV、図3が6 MeVまで電子を加速し、金属ターゲットに当ててX線を発生させます。これらのエネルギーにはそれぞれ意図があります。
図1と図2の装置は構造物を破壊することなく内部の欠陥を調べるのに使用できます。図1は、1 MeV以下ですと放射線障害防止法によって、放射線管理区域外でも電離放射線障害防止規則に準じた透視非破壊検査が認められているのです。
図2は4 MeV以下では橋の検査での使用が認められているからです。この装置を使えば、従来1時間かかっていた橋げたの透過像が、わずか数秒で撮影できます。この技術を使えば、構造物内部の欠陥をその場で透視することが可能になるでしょう。
図3の装置は6 MeVで、これはがん治療に使われます。
図3の装置を用いたがん治療とはどのようなものですか?
X線がん治療ではがん周辺の正常細胞にもどうしてもX線が当たってしまいます。そこで我々の技術で正常細胞へのX線照射のリスクを最小限にとどめる研究を進めています。
具体的には肺がんのX線治療を研究しました。肺は呼吸時に3 cmほど動き、一方がんの大きさは数mmのため、がん細胞のみにX線を照射しようとしてもずれていき、正常細胞にX線が照射されてしまいます。そこで、X線でがんの動きを観察しながら、それを追うようにX線源を動かすことで、正常細胞へのX線照射を最小限にとどめることができます。これは、X線源がロボットアームに乗るほど小型化したからこそできる治療法です。
現在社会的にも原子力は大きな問題となっていますが、私はこのように放射線の利用で健康や防災のための技術に貢献したいと考えています。
放射線が人体に与える影響について、先生はどのようにお考えですか?
私は科学技術者として、また原子力に携わる者として、今回の福島原発の事故は重く受け止めています。300 mSv以下の低線量被ばくのデータは、現段階では広島・長崎・チェルノブイリ等での統計がほとんどです。ですから今後さらに小型のチップ状のX線源を開発することで、低線量被ばくの研究を広く普及し、科学的データを充実させていくことが私の使命だと考えています。
最後に、学生へのメッセージをお願いします。
私の場合「小型の放射線源の開発と利用」というオリジナリティーがあり、これからも装置のさらなる小型化を目指して研究を続けていきます。皆さんも自分らしさを見つけて表現して下さい。
上坂研究室のHP
(インタビュアー 花村 奈未)